令和3年厚生労働省「労働安全調査」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じることがある労働者の割合は53.3%と報告されています。
実際に当関連施設のカウンセリングルームの相談内容の多くが職場のストレスを主訴とした相談が多いです。
講演やカウンセリングでも”ストレス”を扱う機会は非常に多く、現代社会において健康でいきいきと過ごしていくためには”ライフ・ワークバランス”を整えるために、ストレスマネジメントに関する知識を持つことはとても重要なことです。
ストレスとは元々は物理学の用語で、下図のように外部からの力により”歪み(凹み)”が生じることを”ストレス反応”と呼んでいました。
ある新聞で『ストレス解消』という言葉を用いられてから一挙に広まりましたが、メンタルヘルス、心理学分野ではストレスの原因となるものを”ストレッサー”、それにより生じる凹みや症状のことを『ストレス反応』と言います。
『ストレス反応』は必ずしもネガティブな体験で生じるものではなく、嬉しいこと、楽しいことでも環境の変化が生じればストレス反応が生じる可能性があります。
古い論文のものですが、ホームズ(1967)の社会的再適応評価尺度というものがあります。ストレッサーを評価測定したもので、結婚をストレッサーとしてのストレス度を50とした時に各ライフイベントのストレッサーの平均点数を数値化したものです。
このように、「25位 個人的な輝かしい成功(28)」「27位 就学・卒業(26)」「42位 クリスマス(12)」など一見ポジティブなライフイベントでもストレッサーになりえます。
ストレスの話となると、「私はストレスを感じたことがない」「体育会系だからストレスには強い自信がある」などお話してくださる方もいらっしゃいます。
『ストレス=メンタルヘルス』の問題ではありません。
うつ病や適応障害など精神疾患に限っての問題ではなく、身体疾患にも大きな影響があります。
以下は、【ストレスと関連のある身体疾患】の代表例です。
健康寿命を短くする(寝たきり・大きな後遺症)疾患の第1位である脳血管障害(脳卒中)は高血圧、糖尿病、高脂血症が最も重要な危険因子であるために、生活習慣面も含めた適切な対応が重要です。
近年は勤労世代の発症も増加しており、退職後の生活を楽しみにしていても満足に健康寿命を全うできない状況になってしまうことも少なくありません。
※健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間
【ストレスのメカニズム】
ヒトはストレッサーから影響を受けると、脳の扁桃体に刺激を送り、そこから副腎へ信号を送ることによってストレスホルモンが発生されます。
ストレスホルモンが発生すると、心拍数が増加し、自律神経の活動、血液凝固作用などが表れます。これを『心理的ストレス反応』といいます。
これは、人間が狩りをしていた時に”戦闘モード”になる時に必要な作用であったために、このような心理的ストレス反応が生じたという説もあります。
【心理的ストレス反応の5段階】
心理的ストレス反応が生じると一挙にうつ病や症状が表面化するわけではありません。じわじわと症状が表れて強くなっていきます。
最初は、心身で疲れを感じる『疲労感』から『イライラ感』、『緊張感』、『身体不調感』と段階を経ていき、この段階で内科などを受診する方が多いです。内科を受診し検査をしても異常が見られないために心療内科や精神科を紹介されますが、やっと受診したそのときには最終段階の『憂うつ感』も強くなり、休職せざるえないといったケースも多いです。
実際、精神科の初診の患者さんの9割以上が事前に内科を受診しているというデータもあります。
強いストレスに持続的に晒されていると、うつ病に罹患します。
昔、『うつ病は心の風邪』というキャッチコピーを聞いたことはないでしょうか?うつ病の認知度をあげることには成功しましたが、『風邪だから大したことがない』という誤った認知が広がってしまい、この表現は大きな間違いであったと言われています。
では、うつ病(大うつ病性障害)はどれほど”つらいもの”か知っていただきたいです。以下、DSM-5による診断基準です。
⑨にもあるように、自殺とうつ病は密接な関係があります。自殺企図する方の9割以上が精神疾患に罹患しています。
自殺者数を減らすためにに国、地方自治体は様々な対応をしてきました。静岡県では少し前に下図のようなリーフレットを配布されました。
ストレスを強く受けると、不眠症状が出ることも少なくありません。睡眠に支障をきたすと、一挙にエネルギーが削られメンタルヘルス不調が進んでしまいます。
一言に「不眠症」といっても、いくつか症状があります。
これらの症状がみられれば、病院受診も検討しながら、社会人なら職場の産業医、学校ならスクールカウンセラーなどにすぐにでも相談していただきたいです。
長くなりましたが、以上で《職場のストレスに関する基礎知識①》とさせていただきます。
次回は、心理学的ストレス理論を基本理論として、セルフケアなどについても取りあげたいと思います。